雪白の月

act 7


「基寿…」

数時間ぶりに見る岩瀬は思っていたよりも顔色が良かった。
その事に少なからずホッとして、岩瀬の頬にそっと触れる…

「何時も有り難う。基寿…。お前はこんな風に俺を庇ってくれるけれど、もういいよ…もう…」

石川は先ほどから思っている事を思わず口に出していた… その呟きが聞こえていたのだろうか… 
岩瀬の閉じられていた瞼が微かにゆれる…

「基寿?」
「……ん……」

岩瀬がゆっくりと目を開けた― そして…

「…悠さん…?」 かすれた声で石川の名を呼ぶ。名を呼ばれた石川は…

「ここだ…。」

岩瀬の手を握り締め、微笑んだ。

「悠さん…ここは?」
「メディカルルームだよ。」
「…あぁ。…大丈夫でしたか?悠さん…」
「…おかげさまで…」

岩瀬は常とは少し感じの違う石川に戸惑う。

「…悠さん…何かありましたか?」
「…特には…」
「悠さん?」

岩瀬は様子のおかしい石川に問いただそうと起き上がった。すると…


―ピッ―


石川の内線が鳴る。

「石川だ。」
「三舟です。内藤さんから連絡が入りました。逃走中の犯人を逮捕したそうです。」
「そうか。」
「それから、内藤さんからの伝言です。」
「何だ?」
「『仕掛けた爆弾は二つ。一つは官邸に、一つは議事堂に。官邸のほうは処理済だ。信用できる情報だから、安心しろ。』とのことです。」
「…そうか。だが警備レベルはそのままに。非常勤から通常勤務へ。犯人は捕まったが気を抜くな!」
「了解。…岩瀬は…?」
「今、目を覚ました。…Drの診断を待って追って連絡する。」
「了解。良かったですね。」
「あぁ…。」
「では。」

そう言って三舟からの無線は切れた。 石川は橋爪のほうを見て

「Dr。岩瀬の状態は?」
「大丈夫ですよ。今すぐにでも仕事に戻れます。」
「そうか。どうする、岩瀬?」

石川は岩瀬のほうを向き、そう尋ねた。
尋ねられた岩瀬は 「もちろん仕事しますよ!」 とすでにゴソゴソと支度を始めている…
そんな岩瀬を苦笑と共に見つめ 「Dr。本当に大丈夫なのか?」 橋爪に再確認する。
聞かれた橋爪は一つ頷き 「大丈夫ですよ。」 とニコリと笑顔つきで答えてくれた。
その笑顔を見て石川は安堵する。
いくら岩瀬本人が『大丈夫』と言っても 所詮、自己報告なのでいまいち信用できないが、橋爪が太鼓判を押すとなれば一安心だ。
石川は薄らと微笑み―

「行くぞ。岩瀬」
「はい。」

準備を終えた岩瀬が橋爪に礼を言う。

「お邪魔しました。」
「気をつけるんだぞ。それから…」

橋爪は石川に気づかれないようにコッソリと岩瀬に囁いた。
岩瀬は囁かれた内容に眉を顰めるが…直ぐに『大丈夫、有り難うDr』と微笑んで、メディカルルームを後にする。
橋爪はそんな岩瀬を見て ―


『やはり岩瀬は岩瀬だな…。きっと石川さんも解ってくれるだろう。岩瀬の“強さ”を…』


「余計なお世話だったかな…?」 と呟いた。その綺麗な微笑と共に―








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